電車待ちのホーム。日を浴びる線路、敷石、ぐっと見上げて青い空。ソメイヨシノ開花宣言、満開にはまだ早いのに紅白提灯ぶらさがり、行き交う人も春爛漫。私が首に巻いている布はもう季節外れで景色から浮いている。前に並ぶ男性の足下に、色も抜けてしわのよったイチョウの葉が一枚。所在なさげにコンクリの上の枯葉と私、冬はどこだ、北風はどうした。男性の左足が枯葉を踏んだ。次の瞬間、東からの風がやって来て、砕けたかけらを吹き飛ばした。

だるまさんがころん「だ」

 携帯電話のメールは「だるまさんがころんだ」みたいだ。「だるまさんがころんー」で文字を打ってる。なんとなく高ぶっていてわーっと進む。「だ」で送信。ほんの一瞬空気がとまる。動いたのは私?あーあ、鬼になっちゃった。そんな感じ。

ボイコット 2と1/2

 職員の余興。受けを狙った寸劇とそれに続くバンド演奏、その他大勢ずらずら並んでコーラス隊。これがコーラス隊とは名ばかりのブラウン管ダンサーズ。ツーステップは足踏み軽く手はひらひらと上下に舞って、あげくのはてには肩をいからせ胸を振る。私は職務をボイコット、しらっと客席のパイプ椅子に腰をおろして光り輝くステージをぼんやり眺めた。
 高校三年生の冬。我が学年のプログラムは先生の意向によりどういうわけか時代劇。昨年までは宝塚風の華麗な劇を繰り広げてきた三年生の伝統はどこへやら。ちょんまげつきのかつらを被りもんぺ姿の三年生。そんなのやってられないと作戦決行。その他大勢に紛れることに成功した私は本番直前に講堂を脱出、出番が終わる頃までトイレに逃げ込んだ。
 ラモーナ*1のこと。ラモーナはクリスマスの降誕劇で羊の役になった。お母さんに衣装を頼んだが、忙しいお母さんがやっと作ることができたのは頭の部分の帽子だけ。あとはありあわせの服を着るしかない。友達が素敵な羊の衣装で現れる中、ラモーナは劇になんか出るもんかと楽屋の隅に隠れることに。ところが、そこにやってきた高学年のお姉さんにマスカラで鼻の先を黒く塗ってもらい気をよくしたラモーナは意気揚々と舞台に上がった。
 どうやら私の鼻の先も黒く塗る必要がある。

すいーとなすりきずはすろーなすけーと

 昨日、ぽっかり空いた時間があって、さてどうしよう。なんとなしにペンを握り、自分の名前を書いたり目に見えるものを手当たりしだい文字に写したり履歴書を書くくらい丁寧に書いたり書きなぐったりした。それから「あ」から五十音を並べ、その字から始まる言葉を書く遊びをした。ルールは一つ、最初にぱっと浮かんだ言葉を書く、時間をかけて考えていくつかの中から取捨選択してはいけない。
よーい、はじめ!

 ぬれぞうきんとかなんじゃらほい。毎日書いたら何か違いがあるかなと思い本日も挑戦したもののたいして変わり映えしなかった。ま、明日もやってみよう。そしてまた「あいうえおかきく…」と五十音を書いていく。どのひらがなが一番かっこいいかなと考えた結果、自分フォントで「す」に決定。それではと「す」から始まる言葉だけピックアップしてみる。辞書を見たら元も子もないので自分の脳味噌頼み。す、す、す…
ふと気づくとおかっぱちゃんが机越しからじっと見てる。ひゃあああ、見てた?こうなったら巻き込んじまえとバトンを渡す。
「すいーとって書いた?甘いものだよ」
「すりきず。ちょっと痛々しいけどね、へへへ」
そんなこんなで今日の成果。

pop up2

 新たな亡霊が現れた。書き手は不明、書き込まれた文体や字体から勝手想像、まことしやかに物語が出来上がり一人歩きを始める。性別年齢職業家族構成エトセトラ。「あなたの考えをご自由にお書きください」四角い枠の中に透けて見えるもの。部屋の中に何百通とひらひらと。