夕焼け小焼けのタイムマシン

大分、間があきました。



 小学生の時の門限は17時。役場のスピーカーが「カラスと一緒に帰りましょう」と家路を促す。夏の17時はまだ日が高く、切り上げるのには惜しい気がする。スピーカーはそんな子供の気持ちを見透かしてか繰り返し歌い、山にぶつかり戻ってきた音はこだまとなって私たちの背中を押す。
 ある日のこと、私とともちゃんは、私の部屋で遊んでいた。その日は、どういうわけか、二人とも17時を過ぎたことに気づかなかった。ふと私の目に入った掛け時計の針は17時5分を指していた。しかし、私は考えた。この部屋にテレビはない。時間がわかるものは部屋にあるスヌーピーの掛け時計と太陽の光だけ。今は夏だし、暗くなるのはまだ先だ!ともちゃんがお手洗いに出て行った。その隙に、私は椅子に登り、掛け時計の針を30分ほど巻き戻した。掛け時計はタイムマシン。スヌーピーの手は16時半を指し、ウッドストックは何ごともなかったかのようにコチコチと左右にゆれている。戻ってきたともちゃんが言った。「今、何時かなあ。」「まだ17時前だよ。」ともちゃんは座り、私も時計のことはすっかり忘れて再び遊びに没頭した。時間のバリアを破ったのは母親の「ごはんよー。」の声。「まだいたの、もう18時よ。」ともちゃんは泣きそうな顔ですっくと立ち上がると慌てて駆けていった。走っていけばものの1分。ともちゃんは玄関を開けたとたんに怒られる。「今、何時だと思ってる。うちさ入れねえぞ!」それからしばらくして夕日は蔵王の山へと落ちていった。

 何をして遊んでいたかは覚えてないんだなあ。ともちゃん、ごめんなさい。

 またどうして思い出したかというと、星新一ショートショートの「自分の周りだけ音がでなくなる機械があって、機械の周囲は音がでないからガラス割って進入しようが自分がいくら音をたてようが無音なのだけど、防犯ベルは鳴っていたから気づかれた、こんな大胆な泥棒は始めてた」というような話を読んだからです。