刺客あらわる

 ビジネスマンに子供連れ、革靴にビーチサンダルピカチュウ帽子。混沌とした夏休みの地下街を、ただその流れにまかせてのらりくらりと歩いていた。流れ流れてどんぶらこ 辿り着いたら鬼が島 一旗上げて宝船、とぷかぷか浮いていたら、こちらに向かって歩いてくる集団の中にただならぬ気配。はっと目を見やると、鋭い眼光の男がじりじりと私の方へ近寄ってくるではないか。手には弓。つがえた矢の先は私に照準が合っている。ロックオン、時すでに遅し。覚悟をきめた私は、せめてもの抵抗をと敵を睨みつつ歩を進める。もはやここまでかと思ったその時、天から朗らかな笑い声が響いた。
 喧騒の地下街。「ふふふふふ、すみません。」若い女性がすれ違いざま、ぺこりと頭を下げた。その脇には足を踏ん張りオレンジ色のタオルを力いっぱい引いている男の子がいた。まだ私を狙ってる。それじゃあと、手は振らず睨み返してさようなら。