この違い

 子どもの頃「一本橋こちょこちょ たたいて つねって 階段のぼって こちょこちょこちょ」という腕でやるくすぐり遊びがあった。これが「東京都 日本橋 がりがり山の パン屋さんと つね子さんが 階段のぼって こちょこちょこちょ」というものだということを知ったのはつい最近。ストーリーがあることに驚いたのだが、これは序の口だった。
 「いちじく にんじん さんしょに しいたけ ごぼうに むくろじ ななくさ はつたけ きゅうりに とうがん」という数え歌。これは他の食べ物に置き換わっているものもあるのだが、私が祖父から教えてもらったものはこれ。「いちじく にんじん さんしょに しいたけ ごぼう ろくでなし しちめんちょう はっとばせ くやしい とった!」食べ物はどこへやら、いったいどういうことだろう。ろくでなしといわれてくやしいから相手をぶっとばして七面鳥を奪い取ったのだろうか。私はお風呂を上がる前はいつもこれで十を数えていた。
 「じゃんけん ぽっくりげた ひよりげた」というじゃんけんをするときの掛け声。ぽっくりもひよりげたも下駄の一種。ところが私の育った地域では「じゃんけん ぽっくりけつ 馬のけつ」下駄が馬のお尻に変わってしまった。この違いはどういうことだろう、もとの掛け声をを悪がきがおもしろおかしく変えたものが残ったのだろうか。彼らはそっと馬の後ろへ回って尻尾の毛をひっぱったりして後脚で蹴飛ばされたりしたのだろうか。そういえば近所に一頭だけ馬がいた。二頭小屋にぽつんと栗毛の馬。いつも頭をこちらへ向けていたから尻を見ることは結局なかった。