壜に詰めた春

 通勤途中の車窓。目の前に満開の桜並木。高架上だったから桜色の雲の中にいるような気分になった。
 小学生の頃、歩いて30分くらいの湖畔公園によくピクニックに行った。その公園はまだ整備されていなくて、ゆるやかなカーブの道でつながっているいくつかの芝生広場に点々と木が陰を落としているような場所だった。
 春のピクニック。お弁当とおやつでいっぱいのバックを持ってそよ吹く田んぼの中を歩く。空にはとんびが輪を描いている。公園に到着するのはちょうどおなかがすいた頃。私達は満開の桜の木の下にシートを広げ、さっそくお昼ごはんにする。おなかもいっぱいごろんと横になると次から次へと降ってくる花びらが目に入った。散りたてのきれいなものをそっとつまんだ。そして私は芝生の上に落ちている花びらを集めては、飲み終わって空っぽになった壜につめた。今日のおみやげは春の空気いっぱいの透明な壜。
 何年後だったろう、時を経て発見された時、壜の中にはくすんだ茶色の塊があった。幼い日の春。